別れようと、なんども


ぽつりぽつりと、重要な言葉しか話さないところが好き。
石鹸で洗っているのに、美しい漆黒の長い髪が好き。
竹を割ったような分かりやすい性格が好き。

…俺は手放せない。












「おまえは何者か」

「―――ブックマンを継ぐ者」

「ブックマンはどうあるべきか」

「―――情を移さず、情に流されず、様々な人々と言葉をかわし、そして何事も
無かったかのように去っていく。
゛記録係゛に感情は不要。ただあるがままを己か私情を交えずに記さなくてはな
らない。」

「今一度問う。お前は何者か?」

「―――ブックマンの継承者」





「…ビ、…ビッ、…ラビッ!」

「……っ?!」

意識が浮上した先にあったものは、いつも通りの天上と、何とも言えない表情を
した愛しい人。
シーツを握る自分の手は、やけに白くなっていた。
嗚呼、またあの夢だ。
しばらくその手を眺めていると、首筋にひんやりとしたものが巻かれた。
否、首を絞められた。

「静かに寝れねぇのかよ、お前は…」

「…ご、ごめんなさい」

フンっと鼻を鳴らしながら、首を掴んでいた手をするりと抜いた。
それを名残惜し気に眺めていたら、さっさと寝ろと言わんばかりに布団を二・三
度引っ張る気配。
…こういうとこも好き。
お誘いにのって、もそもそと布団に潜る。
さっきまでの行為の名残で裸のままの身体が、妙に嬉しかった。
唇の右はじを少しだけ上げながら、後ろからユウの腰に腕を回して引き寄せる。
何の抵抗も無く、すんなり腕の中におさまった。
珍しいな、と思いながら首筋に額をくっつけた。
ユウがほてりの残る背中を、自分から擦り寄せてくるのが愛しい。

(どうしよう…凄く安心、する)

今まで安心など、してはいけなかった、求めてはいけなかった。
人としての温もりは、既に捨てたはずだった。
幾度となく生まれる気持ちを、いつもの様に目をつむることで忘れようとするが、
その度に『ラビ』と、呼ばれる。
呼び名など、自分の代名詞でしかなかったから、呼ばれて愛しいと思うはずもな
かった。
俺はブックマンの後継者だから、記録地に行くたび呼び名を捨てた。
執着心など、持ち合わせていなかった。
けれど、今は。
…ごめん、ジジイ、

「ごめん、ユウ」

…手放せなくて。
俺は【ラビ】という名と【ユウ】との安心感と別れたくないんだ。
ユウは何も言わず、ただ腰に回した腕に手を添えてきた。
…今別れなければ、後に残る傷が深まると分かっている。
でも、このぬるま湯に浸かっていたくて。
いつかは別れるから、だから今だけもう少し、もう少しこのままで。

…後の自分が見えるのに、期限をそうして延ばしていく。






 


F-6:別れようと、なんども
ラビュフェス投稿作品。

2007.8.2

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