たった一言





「なぁユウ〜。なんか欲しい物ある?」

「ない」


梅雨に入ったのか、外は雨ばかり降っている。
つまりユウの誕生日が近い、という事。

好きな人にプレゼントを贈りたいのは当然の事で、色々考えてみた。
が、どうしてもユウが欲しい物が解らなかった。
だから、それとなーく(直球に)聞いてみたんだけど、
……さっきの通りばっさり切られてしまった。


「大体、お前物買ってる暇なんてないだろ。」

「え?」

「さっきモヤシがラビとこれから任務だって騒いでやがった。」

「はっ初耳さ!」


そんな事聞かされてない。
というか、今から任務だなんてたまったもんじゃない!

俺は本当かどうか確かめるために室長室まで急いだ。


「本当だよ。アレン君と2人で任務に行ってもらうから。」

「コームーイー…」


あんまりにも楽しそうに話すから、一発殴ろうかと思ったけど、
パンダの奴が部屋に入って来たから拳を作るだけにした。
帰って来たら覚えてろよ…。









「あれぇ?おかしいなぁ…」


もう3日ぐらい同じ所をぐるぐる回っている気がする。
周りは木・木・木…偶に崖。
まったく、アレンの方向音痴には呆れるさ…。
何でこんな時に限ってこんなに迷うんさ!

今日は何日?

いきなりふっと思い出して、任務初日の日から指折り数えてみる。
…4、5、6日。
(なんてこった、今日じゃん。)
はぁ、と溜息をついた時アレンが斜め上に指を向けた。


「ラビ!ほらあそこ。本部が見えてきましたよ!」


良かったですねぇ、とへらっと笑っているアレンを他所に
(アレンと二人っきりなんて、もう懲り懲りさ…。)
と、一人ゲッソリしながら入り口へ向かった。
…結局、何をあげたら良いか分からないまま誕生日当日になってしまった。






帰って来てすぐに見たものは、コムイがあの兎のヌイグルミ、
ジェリーさんが蕎麦の特盛(天ぷら付き)を押し付けている所だった。


「ほらぁん♪遠慮は要らないのよ☆」

「貰える物は貰っておくべきだと思うよ。」


何となくそのプレゼントから、あげた人がイメージ出来て笑えた。
ジェリーさんなんていつでもあげれる物だし。


「ラビは無いのかい?」


いきなり後ろを向いたコムイが言った。
…狙ってやがったなコムイめ!!
お疲れの一言も言えないのか!?

むきーっと睨んでいたら、いきなりユウが俺を呼んだ。


「おい、行くぞ。」

「えっ!ちょ、待つさ!」


いきなり歩き出したユウを追い掛けて、俺は焦ってその場を離れた。



連れてこられた場所は、ユウの部屋…なんてイイトコロじゃなくて、
外に勝手に出来ている林だった。
断っていたにもかかわらず、律義に押し付けられたプレゼントまで持って来ていた。
やっぱり優しいんだよ、ユウは。

そのプレゼント達を見て、どうにもいたたまれない気分になって来た。
大好きな人の誕生日なのに…自分は何も用意していない。
(駄目じゃん、俺。)

下を向いた瞬間、いきなりユウが何かを投げてきた。
咄嗟に掴むと、それは木刀だった。


「な…に、するんさ?」

「決まってる、…相手になれ。」


全く、色気もクソもないってか?


「俺、プレゼント無いんだけど。」


後ろを向いているユウの背中に向って言った。
諦めからか、又は思っていた事と違っていたからかは分からない。
唯、気づいたら口から出ていた。


「其れが何だよ。早く構えろ。」

「だって…

「モノなんて要らねぇよ。」


いや、そんな事前から知っていたけど。
それでもあげたい場合はどうすればいいんだよ。


「お前が生きていたらそれでいい。」


…え?
今のって、ユウの本音?

どうしようって今更だけど、不意打ちは卑怯。
きっと今顔が真っ赤なんだろうなー。
のん気に考えられる自分に呆れる。

(あ、大事な事言ってない。)
何か忘れている気がした。
帰ってきてから誰も言ってなかったから気づかなかった。
でもきっと、これはあいつのオカゲ。


「ユウ、Happy Birthday…」


毎年これを一番に伝えるのが俺だった。
もしかしたら、これがコムイからの本当のプレゼントだったのかも。


「相変わらずだな…」


そう言っていたユウの顔がほんの少し笑っていたから、
今年はこれでよかったと思う。
おめでとう、ユウ。

 


誕生日記念のものでした。
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