欠乏




離れていると寂しいから、声だけでも聞きたいと思うのはイケナイコト?
恋人なら尚更だと思うけど。
もしかして寂しいのは俺だけだったりする?

さっき捜索部隊の無線からユウに電話をかけた。
でも、相変わらずそっけない態度で直ぐに切られた。
俺はすっごく楽しみにしてたのにちょっとショック。



「あ〜あ、帰りたい。」



呟いた言葉は風に消された。
声を聞いたらやる気が出ると思ったけど、寧ろ帰りたくなった。



「…欲張りだなぁ、俺。」



声だけじゃ足りなくて、その白い肌に触れたい。
会って、顔をあわせて抱きしめたい。
俺達は常に死が付きまとい、AKUMAを破壊する事で明日に希望をも持つ。
そんな中で生きていると、自然に人が恋しくなる。
孤独の中に居るから他人を求める。



「そろそろ…。」



付き添いの捜索部隊が声を出した。
その白いコートの人物は、無表情で次の街の方へ向いた。

草原には俺と捜索部隊と昇り始めた太陽だけ。
漆黒の世界から光明の世界へと変わり始めていた。
其れは任務開始の合図で、サッと走り出した。







…今回の任務はそんなに難しい物じゃ無かった。
唯、俺の失態。それだけ。







黒の教団に着いたのは、任務に出てから一ヶ月経った頃。
普通にこなしたら一週間以内で済む筈、だった。
敵がユウの姿に似ていた。
其れだけで油断した…。



「ラビ、遅かったね…。怪我、大丈夫かい?」



普段は研究室に篭りっ放しのコムイが出て来た。
顔は少し苦笑気味で。



「ん〜ちょっと痛いけど大丈夫さ!」



本当に大した事はない。
急いで答えて部屋のある方へ走った。
早くユウに会いたい。


その願いは全く届かなく、部屋には居なかった。
ユウが自分の部屋以外に居る場所なんて限られるのに、
修練場、食堂、シャワー室…何処にも居ない。

(まさか任務とかじゃないよな!?)

もう一度食堂に来た所でリナリーに会った。



「なあ、ユウ知らね?」


「さぁ…でも、任務ではないわ。わざわざアレン君に一人で行かせたもの。」


「何でまた?」


「それはラビが帰って来るからじゃない?」



フッ、と笑みを零すとまた歩き始めた。

(…悪魔。知ってるよ、俺らの事。)

秘密にしておいた筈なのに、あの兄弟は勘がいい。
もう暫く探したけど、やっぱり何処にも居ない。


俺は、今日はあきらめて明日捜すことにした。
治りかけた怪我が開きそうで痛い。
自分の部屋のドアを開けた。
奥のベットには自分が今まで探していた人物が寝ていた。



「ユウ…?」



俺は静かな声で本人かどうか確かめた。
すると、ゆっくり起き上がってこっちを向いた。



「おせーよ。」



つまりは最初からおとなしく部屋に帰っていたら会えた訳で。
ユウに会える最短距離を、自ら崩してしまっていたなんて分からなかった。

俺はベットに近づいて音を立てないように座った。
いつも高い所で結んでいる髪は、下ろされてシーツに広がっている。
開いた目は心なしか眠そうだ。



「ただいま。」



そう言うとユウは俺の首に腕を回して目を合わせた。
いつもなら俺が引っ付いたら容赦なく殴るのに。
今日は一体どうしたというのか。



「結局、俺も人間らしい。」


「少しでも俺の事考えてた?」



ユウの背中に腕を回しながら聞いた。



「穴が開いた気がした。」



めったに聞けない本音は俺を喜ばせるには十分な威力。

人は皆、支える人が必要で、ユウの支えは俺だった。
神様なんて信じてないけど、この時ばかりは感謝した。
出会わせてくれて有難う。

一ヶ月会えないだけで寂しいと思う。
欠乏してるから物を欲する。
俺もユウもお互いが必要だった。



「今日は一緒に寝よ。何もしないからさ。」



俺はユウの隣に潜り込んだ。
癒してくれるのは互いの存在。
開いた部分を埋めながら、深い眠りへと誘われた。



 


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