青白く光る海の底に置いてきた物がある。 鋼鉄の箱にしまって、開かないように鎖を巻きつけて、南京錠で閉めてある。 その鍵を持つのは自分だけ。 それは、君への思い。 ずっと、隠してきた思いがある。 気づかれないように一人で暖めてきた。 ムヒョに会うまで本気の恋はしたこと無かった。 女の子は本気だったのかもしれないけど、俺は表面上の付き合いだった。 そのころは、その恋一つ一つが本気なのだと思ってきたけど、ムヒョに思う気持ちは今までとは違った。 色でたとえるなら、白。 今までのは赤とか、黒とか、濃い色だった。 だけど、今回のは白だった。 すぐに違うと分かったのは、それだけじゃない。 相手が、男だったから。 別にそういう性癖の人に差別的な思いは持っていない。 むしろ、俺は好きだと思ったなら、年齢も性別も関係ないと思う。 だけど、俺自身は今までが今までだったから、驚いたというのが本音。 女の子ならすぐにアプローチしてしまえば、仲良くなれる。 たとえ友達になるにしても、だ。 だけど、男を好きになったことが無いものだから、どうしていいか皆目見当つかない。 これは致命的だった。 だったら、ムヒョに近づく方法は友人という肩書きが必要だった。 近づいて親しくなってから、それなりの行動をすればいいのだと思っていた。 だけど、それは出来なかった。 行動に移す前にロージーが現れたからだ。 いつの間にか二人の仲は近づいていた。 それは執行人と助手の関係で近づいたのだと思っていた、が違った。 俺はある日見てしまった。 俺の上司のペイジ執行人からの資料をムヒョの事務所に届けに言ったときだった。 中からかすかにロージーの声がしていてたので、驚かしてやろうとこっそり事務所に入った。 …それがいけなかったんだ。 目に入ったのは情事中の二人。 そこで頭が真っ白になって、事務所を再び気づかれないように抜け出したまでは覚えている。 だけど、気がついたら生まれたままの姿でベッドに沈んでいた。 「目が覚めたかい、ヨイチ」 目の前にいたのは服の乱れた上司だった。 ああ、俺はこの人と一夜を明かしたのかと思うと、なぜか涙がこぼれた。 それは、尊敬していた上司と関係を持ったことか、失恋したからかは分からなかったけど、多分思いつくのだからどちらもあたっているのだと思う。 それからずっと俺はこの人との関係を保っている。 ムヒョへの思いと一緒に恋愛感情も底に沈めてしまっていた。 だから、この人を好きになることは無い。 「鎖の鍵は、私にはくれないのか?」 だからこそ、睦言にこんな言葉を持ち出してくる。 口癖は「すべてが欲しい」 ごめんなさい、貴方の事は心から尊敬しているし、大好きです。 でも俺はもう誰も愛せません。 いっそ鍵を捨ててしまおうかと思っていた。 だけどそれが出来ないのは、どこかに入れ忘れた感情があるからだ。 その感情が自分を切りつけるナイフに変化している。 分かっていながら、俺はほおって置く。 …きっと、いつかムヒョが助けてくれることを待っているのだ。