君の優しさ、僕の狡さ




ああもう、何でこんな時に。
顔が歪むのを必死でこらえて、痛む場所に手を当てる。
今からが本番だというのに、こんなに緊張に弱かったのかと、自問自答。
他の人に悟られないよう、あくまでも自然に座り込んだ。
何か悪いものを食べたわけじゃないから、やはり緊張からくるものなのだろう。

「ロージーのが移ったのか?」

ぼそりと零した声は、本人には届いてないようで、一安心。
彼は優しい人間だから、きっと鵜呑みにするだろう。
そうなるとムヒョが五月蝿いから、それは回避しなければならない。
ムヒョはなんだかんだ言って、結局はロージーが一番大切なのだ。
ムヒョがロージーのことを考えている、…そんな場面を、見たくない。
そこまで考えて一気にテンションが下がるのが分かった。
普通こういうときは、他の事考えればいいんだけど、過ぎてしまったものは仕方が無い。
ゆっくりと、視界をぼやかすように目を細めた。
こうすることで、自分はこの世界と一線をおいているような感覚になる。
自分だけがぼやけた世界にいるかのように、他の人とは違うということを認識したいのかもしれない。

「腹痛いんですか?」

え、と振り向いた先には少年の姿。
はい、と、温かなお茶を差し出してきた。

「無理しないで言ってくださいね」

「ああ、…うん。ありがとなギンジ」

笑って答えたら、ギンジは顔を赤くして「いえ…」と答えた。
声を小さく潜めてくれたのは、多分俺が回りに知られたくなかったのを悟ったのだろう。
…こいつは俺の気持ちがムヒョに向いているのを知っている。
俺は、こいつの気持ちが俺に向いているのを知っている。
それを知ってて、甘える、俺は狡くて汚い人間。
逃げる道を、避難する場所を確保しておきたいのだ。

「エンチューが聞いたら、きっと怒るよな」

自分は何処かで叱ってほしいと願っているのだと思う。
叱ってほしくて、かまってほしくて、エンチューを取り戻そうとしているのではないか。
不純な動機で、やっているのかもしれない。

「最低だ」

知りながら、止められない。
謝る気もない。
腹に添えていた手に力を入れたら、余計にそこが痛くなった。
涙は、出ない。




 


2008.02.28

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