鴉と犬の鳴き声が交差する。 日本であって日本で無いような、幻想的な世界に俺は立っていた。 こんなのとっとと終わらせて、帰って暖かいコーヒーでも飲もう。 目の前の雑魚霊を横目に見ながら、そんなことを考えていた。 「ヨイチ、ここに行ってくれるかい?」 上司からの通達で、執行人無しの異例とも言える討伐に借り出された。 確かに執行人は現在少なく、困っているのだが。 だからといって一人も一緒に行かないというのはどういうことだ。 ため息をつきながら一つ二つと、破魔刀でなぎ払った。 「今井さんに剣道習おうかな…」 最強の裁判官と言われながら、実際は最弱なんではないかと、思う。 確かにそこら辺の連中よりも錬の量も使い方も、優れている。 だけど、やる気がまちまちなのだ。 気が乗るときは何でもスムーズに行くが、乗らないときはてんで駄目。 友人たちにも何度も注意されているというのに。 今回だって、最初は乗り気だったのだ。 最初、は。 同行の執行人が、友人でもあるムヒョだったから。 ムヒョにかすかな恋心を抱いている俺は、それはもう、周りからびっくりされるほどの喜びようだった。 なんていったってあのペイジ執行人にまで、言われたのだ。 だけど、ムヒョも自分の事務所の事件のほうが大切だから、今回は同行できなかった。 「だからって俺が全てを指揮するとか…」 自信が無いわけではなかった。 文句を言うやつがいるわけでもなかった。 ただ、自分にやる気が起こらないのだ。 「火向裁判官!これで全て終了です!」 「うん、お疲れさん」 「では、夜が明けてから帰還しましょう」 「あ、ちゃんと人数確認と事後処理班に連絡忘れるなよ」 「了解です!」 キャンプに戻る元気いっぱいの部下を見送る。 俺も昔はああだったんだよな、と、空を見上げた。 「会いたいな…」 目を閉じると、真っ暗な空に吸い込まれるような感覚だった。 腕も、足も、頭も、心臓も、全て。 吸い込まれて、君の元まで行ければ良いのに。