誘惑物





「暑………」



夏の夕暮れに襖を全開にして畳の上で転がる。
その行為が、なんだか習慣のようだと気づいて目を伏せた。
外では命短い夏の虫が忙しなく鳴いている。
何時ものように目の前の山へ重なる太陽が赤く染まり、部屋の畳を同じ色に染める。

(闇が来る)

自然と蛙の鳴く声も聞こえてきて、なんだか寂しくなる。



「総悟」



その声だけが、やけにクリアに聞こえた。
ホントにあんたの事が好きなんだなぁと、今更ながら思ってしまった。
そんな自分が恨めしく思う。



「お前がクーラーの無い所にいるたぁ珍しいな。」

「あんたが知らないだけでぃ。」



そういいながら身体を起こして土方さんを見る。
ほれ。と言いながら渡してきたのは、溶けかけのアイスキャンディー。
ミルク味よりいちご味の方が良かったなぁと開けながら思った。



「近藤さんはどうしたんですかぃ?」

「お上と一緒に食事だそうだ。」

「あんな奴らと食事なんて、どこまで心がひろいんだか…」



土方さんは苦笑しながら早く食べろと促した。
ミルク味のアイスキャンディーは持っていた指にまで溶けて流れてきた。

(あ、なんかこれって…)

自分も相当やばいなぁと思う。
只のアイスごときに何考えてるんだか…。
でも、なんでわざわざミルク味なんだろ。
考えるのが段々めんどくさくなって、垂れたアイスを舐めた。
冷たくてかじる事が出来ないから、溶けていない部分も必然的に舐めなきゃいけない。

ふと土方さんを見ると、しまったという顔をしてソッポを向いていた。
アイスは食べ終わっていたらしく、手には棒しかない。



「何考えてんだぃ、ヤラシイなぁ。」

「てめぇ……」

「ミルク味じゃなくて苺にすりゃよかったじゃないんですかぃ?」

「……ちょっと黙れ。」



一気に土方さんの顔が変わったのが分かった。
いつもの顔じゃなくて、欲情にまみれたあの顔に。
のん気に観察していると、押し倒された。



「なんですかぃ、ヤる気になりやした?」

「……いちご味だったらモロに想像するだろうが。」

「でも、ミルク選んでも想像し…」



言いかけの言葉を遮って口を塞がれた。

(多分図星だったんだな…。)

キスをしながら土方さんの手が着物の紐を外し始めた。
気が付くと周りは闇に包まれていて、太陽の変わりに月が天へ昇っていた。
……紅い満月。

やっと口を離したと思ったら、耳の裏をねっとりと舐める。
俺がビクッとなったのを見てフッと口の端を上げた。
そのまま、また顔を近づけておでこをくっ付ける。



「月見しながらってのも乙じゃねぇ?」



耳の裏が感じると知っていて舐めるのも、そんな顔で、声で、近くで言われると弱い事も確信。
性悪だ。と零したら当たり前だと返ってきた。



「声、抑えろよ。」



いつもなら口答えする所だけど、今日は止めておいた。
襖を開けっ放したのは俺。
紅い月が見ていたかったのも俺。
其れを汲み取ってくれたのは土方さん。

(まぁ、偶には…)

止む事のないキスに目を伏せながら、快感の中へ埋もれていった。












吃った声を偶然近くにいた山崎が聞いていて、次の日大変だったのは、また違う話。




 

アイスはどうなったかとか聞かないでください…(汗)
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