expectation



俺はあんたの目が好き。
会議の時、戦ってる時、情事の最中…。

あんたに跨がって腰振って。
それであんたの気が晴れるなら、例えどんなに嫌われてもこの場所だけは譲らない。






天人がこの町にやって来てから、随分夜が明るくなった。
町のどこを歩いてもネオンが輝いている。
暗闇に紛れて人をあやめた事が懐かしく思える。
きっとこれも時代の流れだと薄く笑った。



「随分と余裕だなぁ。」



下からくっくっと笑い声をあげたのは、ヘビースモーカーの俺の上司。
俺が足を跨いで座っているから、いつもと違って目線が下向きになる。



さっきの答えを言わないうちに、下から口を塞がれた。
頭を手で押さえられて、全く身動きが出来ない。
時間をかけてゆっくりと口内を蹂躙される。

いきなり舌を吸われて、ぴくっと反応を示した。
それを見て気を良くしたのか、いつもよりも早く唇を離した。



「…余裕なんてあんたの前じゃ一つも持てないさぁ。」



軽く本音を漏らした所で、あんたの気持ちがこっちに向くことはない。












解っていながら、試す様に言ってしまうのは癖。
知られたくないから、絶対に言わないのは核心。











ああ、その眉をひそめる仕種もドキッとする。



「だから、早く…続けましょうや」



自分でも嫌になるぐらいの引き攣った笑顔だった。





あんたの気持ちは此処には無いって解っているから。
せめてこの時だけは、俺だけを見て、考えて、感じて。
事件や書類や明日の事なんて考えないで、

唯、俺の存在を認識して。



「あ………っ」



繋がったままの下半身をいきなり大きくグラインドされて、
押さえ切れなかった声になっていない音が、口からこぼれた。










「……総悟っ…」










あんたの口から出たのはあまりに意外な単語で。
目を見開いたら、不意に涙が流れた。

そんな声で呼ばないで。
優しくされると、勘違いしちまいますよ?
だって、まるで愛しくて仕方ないような声だから。



何もかもが堪らなくて、あんたの顔に触れた。
本当は好きで、愛しくて、解って欲しくて。
其れでも言えないのが苦しくて。
もう、涙は収拾がつかないくらい溢れ出ている。



「土方さん、土方さんっ、土方さっ……!!」



言葉を遮るように口を塞がれた。



「んぅ……んっ………!」



酸素を全て奪うように貪られる。
その間も身体は休む事なく動いている。
それは、全てを責めたてるように。





激しい快感と痛みと苦しみの絶頂の中で、初めて自分から腕を背中に回した。
その時のあんたの顔が印象的で、忘れまいと心に刻んだ。













目が覚めると、見慣れた天井が視界に入ってきた。
…自分の部屋。
何時ものように、この空間には誰も居ない。
後処理は勿論、副長室から移動もさせられていた。




苦しいのは俺だけでいいから。
だから…さっきの涙は忘れてください。

襖の隙間から朝顔の蕾を見ながら、これから上ってくる太陽を待った。









何時もと同じ朝を迎えるために…。





 

言えない思いは苦しくて

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