10年越しの嘘





「本気で言ってるの?」
「ああ」

この感覚は今までに何度も経験した。
地が震えるような声で、射殺すような目で問われる。

「そうしたら僕は誰を傷付ければいいのさ」

一見理不尽な問いかけは、10年経った今でも変わらない。
…俺はこいつに恋をした。
それは紛れも無い事実で、今まで言えなかった分を10年前のお前に伝えに来た。

「お前はまだ10年前の俺が居るだろ?
 …10年後、居なくならない様に少しでも優しくしてくれよ」

俺は今まで見せた事の無い顔で、特別穏やかに言った。

「…10年後に死ぬから?」

雲雀がこんなに質問を繰り返した事があっただろうか。
なんとも言い表しにくい感情が俺の心を包んだ。
ここに留まれたならどれだけ喜ばしい事だろう。
叶う事の無い願いに思いをめぐらしては駄目だ。
こいつは、本当は…

「…時間だ。じゃあな、雲雀…ランボ」

10年前のアホ牛に感謝する事になるなんて、当時では思いつきもしなかった。
あの時はただ、誤射したランボに怒りを覚えただけだった。
心の中で謝りながら、10年前の雲雀の顔を思う。
目の前が白くなって、ああ…戻っていく、と少し寂しくなった。


視界に色が戻ってきて一番最初に見たモノは、10年前でなく現在の雲雀。

「お前…今日から10代目と…」

一緒に戦地に向かったんじゃ。と言いたかったが、続きは雲雀の口内に収められた。

「10年前に君が優しくしろと伝えてくれたからね」

10年前とは違う甘く響く声に俺は酔った。
たとえ、その優しさが今だけだと分かっていても。
本当は元々俺に向ける愛なんて持っていないくせに。
思わせぶりな態度をとるのがいけない、と


心の中で悪態をついた。




 

性悪的10題 9:偽善
2007.1.20

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